梅、雀
家にては気のつかざりし梅の香の帰り来たれば玄関に満つ
近づけば雀とびたちて雪の上(へ)に小さき体の形残れる
咲き満ちし白梅の鉢を部屋隅に雪にこもりぬその香もわれも
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家にては気のつかざりし梅の香の帰り来たれば玄関に満つ
近づけば雀とびたちて雪の上(へ)に小さき体の形残れる
咲き満ちし白梅の鉢を部屋隅に雪にこもりぬその香もわれも
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わびしさの極まりにけり舅姑の襁褓(むつき)縫ひつつ雨にこもれば
病もて口きけぬ舅(ちち)に何ごとか問ひかくる姑の低き声する
病む舅の皺伸ばしつつ白き髭剃りゐてふいに涙こぼれき
指先にガラスの曇りぬぐひつつ臥す舅姑に初雪を告ぐ
死期迫る老がしきりに空に出す意識なき手を握りてやりぬ
常臥しの姑(はは)に心を残しつつ舅逝きたまふ春待たずして
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病む姑を看りつつ思ふ職も技も持たざるわれの老ひし日のこと
わが姑の癒ゆる日あらば奇跡とぞ
にべもなく医師はわれに告げたり
家隅に癒ゆる当てなく臥す姑はわれの脳裡を消ゆることなし
座りゐる様いぶかりて吾がかけし手に意識なき舅は倒れ来
もの問へばうなづくのみの病む舅に真白き髭はいたく伸びたり
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黄ばみたる夫(つま)の教員免許状家を支へて二十年経ぬ
若き日の夫が日記にわれのことやさしき少女と記しをきたり
その性に似しごと若き日のままに夫の字画のくずることなし
夫とゐて夜の刻長しゆきちがふ思ひのありて黙してをれば
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死後の処置尽くして夜勤明けし日は寮はわびしと妹が来る
嫁ぎても白衣脱がざること決めて迫りくる日々を励む妹
花嫁の装ひ成りし末の娘をながめて母は多く語らず
新婚の旅に末娘を送り来て黙しつつ父も母も歩めり
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かくも易く歩行不能となるわれか手術口僅か二寸といふに
わが臓器とり出だされてガラス器に標本のごと納まるを見る
手術口怖れつつゐるに回診の医師は一気にガーゼを剥がす
覚めゐるはわれのみあらず病棟に忍びつつする咳きこゆ
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続きたる寒気ゆるみし雨の夜は氷柱の落つる重き音する
明るみし空より淡き陽のもれて積もらぬ雪のひもすがら舞ふ
み社(やしろ)の森を越えくる日を待ちて戸を開け放つ雪晴れし朝
如月の半ばとなりて降る雪は一日ニ尺一夜にニ尺
雪降るが常の二月の寒からず水底の鯉静かに動く
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