相容れぬ思ひもちゐき

相容れぬ性いだきつつ舅姑(ちちはは)と諍(いさか)ひもなし嫁して十年

 

諍ふといふにあらねど相容れぬ思ひもちゐき姑(はは)ありし日は

 

一句目は、母が32歳の時の作品です。この時既に、母が嫁いで14年ほど経っています。何年も寝たきりだった祖母が亡くなったのは、母が36歳の時でした。二句目は、一句目の12年後、母が44歳の時の作品です。

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望まざる嫁といはれし

土踏まぬ草履(ぞうり)いくつもいでてきぬ永く病みたる姑の遺品に

 

亡き姑が病みてこもりし六畳を出てきて夫(つま)の姑にはふれず

 

祖母はいつも病みてゐたりといふ子らに

               健やかな日の姑を語りぬ

 

朝々を我に結はせて亡き姑は髪切らざりき永く病みても

 

かへりみて悲しみもなし望まざる嫁と云はれしとほき日のこと

 

一、二句目は祖母が亡くなった年の作品で、母が36歳の時でした。続く三句はその翌年の作品です。

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姑逝きしのち

(はは)ありて保ちしわれの緊張か姑逝きし後幾日も臥す

 

喉はれて食物何も要らざれば臥しをり逝きし姑思ひつつ

 

私が中二の時の夏休みでした。祖母は高熱が出て危篤状態になりました。亡くなる時まで高熱が続いたように記憶しています。祖母の葬儀が終わった頃に、今度は母が高熱を出し寝込んだのですが、じきに私も同じように熱を出して一緒に寝込みました。まるで、祖母の熱がこちらに移ったような気がして、二人して不思議な気持ちがしました。

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朝暗き部屋を点して

(こた)へなき姑(はは)に向ひて姑の子ら

         こもごも己(おの)が名をいふあはれ

 

(おとろ)へて眠れる姑が唐突に亡き舅(ちち)呼ぶをまじまじと見き

 

朝暗き部屋を点して冷えそめし姑の死顔を剃りてととのふ

 

永病みし姑の柩に朝夕にみがきてやりし入歯も納む

 

年永く歩めず逝きし姑の脚細々として足裏うすし

 

年永く病みたる故に姑のお骨灰多くして抱けばかろし

 

祖母が危篤状態に陥る前、何日も高熱が続いたように記憶しています。このとき母は36歳、私は中学二年生で、夏休みの間の出来事でした。

二句目のことは今も良く覚えています。意識が無いように見えた祖母が、突然目を開けて祖父のことをはっきりと呼んだので、母はとても驚いたと言っていました。

祖母が亡くなくなったのは夜中のことでしたので、兄も私も眠ってしまっていたのですが、何年も後になってから母が私達に、「あのとき、夜中でもお前達を起こせばよかった、ひとが死ぬということはこういうことなのだよと見せるべきであったかもしれない」と言ったことがありました。

祖母の葬儀が終わった頃に今度は母の具合が悪くなり、なぜか私も同じ状態になったのですが、二人で1週間も寝込むことになります。

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命危ふき姑につきゐる

暗き灯(ひ)の下に見守る姑(はは)の顔鼻すじ高し永く病みきて

 

弱き脈きざめる熱き手を取りて命危ふき姑につきゐる

 

枕辺に子ら寄り来しを喜びて病みゐる姑が声たて笑ふ

 

食細く病みゐる姑が枕辺に集まる子らの名を呼びたがふ

 

祖母は半身不随で長いこと寝たきりだったのですが、何年間だったのかはっきりとは覚えていません。母の歌を見ると、祖母は10年間程も寝たきりだったように思われます。祖母が危篤状態になり、叔父伯母達が駆けつけた時の歌です。母は36歳、私は14歳でした。

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臥す姑のみの家に帰りて

玄関にもれくる鼾(いびき)に安堵せり臥す姑(はは)のみの家に帰りて

 

くり返す同じことばのむなしくて呆けしか姑の忘るるはやし

 

年永く老い姑守りて家ごもるわれをも子らはあはれなどといふ

 

よき嫁と吾をいふ老ら長病みの姑を疎める心を知らず

 

母が49歳の時の作品でした。

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田より帰れば

長病みの姑(はは)の臥所(ふしど)

           ヘルパーのやさしき声す田より帰れば

 

あまり忙しい時には、ヘルパーさんをお願いしたことがありました。

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疲れては

疲れてはやさしき言葉もかけずして

      常臥(つねふ)す姑(はは)の襁褓(むつき=おむつ)取り替ふ

 

老ひ姑の呼ぶに起きゆく緩慢をいましめをれど夜中は眠し

 

これも田植え最中(さなか)の、作者36歳の時の作品です。 

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寝たきりの姑

雪積みて見渡せぬ窓なげきゐる老姑にながし今年の冬は

 

野のすみれ湯呑にさしぬ永病みて外に出づるなき老い姑のため

 

1句目、屋根から落ちる雪が家のまわりにいつまでも残っていて、外も見えなかったのだと思います。よほど積雪量が多かったのでしょう。母36歳の時の作品です。二句目はその2年前の作品です。

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寝たきりの姑

テレビみる他に術なき常臥しの姑(はは)のテレビをひもすがら聞く

 

常臥せば眠れぬ姑か夜の更けに吾を呼ぶチャイム幾度も鳴る

 

この頃母は35歳、私は13歳でした。祖母が寝たきりになって7年か8年か経った頃だと思われます。母がたまに留守の時は、私が祖母の下の世話をするのですが、それが面倒でとても嫌でした。祖母のことで母がどれ程苦労していたか、また、寝たきりの祖母がどれ程つらく気の毒な状態だったか、子供の私には思いやる気持ちがありませんでした。

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寝たきりの姑

風邪ひきて吾が臥す時も容赦なし老姑が呼ぶチャイムの音は

 

仰臥して飯食む姑が手間どるを見つつ急(せ)きくる心押さえつ

 

日に幾度抱く老姑の重すぎて左腕いつも微(かす)かに痛む

 

夢のごと聞きてをりしは真夜に呼ぶ老姑の声漸(やうや)く目覚む

 

姑病みて十年を経ぬ姑を詠むわが歌いつか愚痴となりつつ

 

『姑』とは、言うまでもなく私の父方の祖母のことです。祖母は、亡くなる前の十年ほど、半身不随で寝たきりの状態でした。(長女より)

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寝たきりの姑

花の便りかかはりはなし日々命保てる姑(はは)とこもりつつ過ぐ

 

(ふ)す姑が吾を呼ぶチャイム鳴り出だし

                  真夜(まよ)の眠りの深きより覚む

 

満ち足りし眠りなき夜を重ねゐて微(かす)かな頭痛われより去らず

 

老い姑に癒ゆる当てなしわが看(みと)り惰性のごとく十年経たり

 

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舅亡き後

雪広く踏みたる中にしつらへし柩(ひつぎ)へ香の煙たなびく

 

亡き舅(ちち)の残せし酒もたづさへて奥津城へ雪の野を渡り行く                              奥津城(おくつき)=墓所

 

左手に飯食む姑(はは)がときをりに匙(さじ)鳴らしをり舅なき部屋に

 

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寝たきりの姑

(ちち)逝きて昼静かなる家隅に長病む姑(はは)の寝息が聞こゆ

 

時折りはいとふ心を励まして流れに姑の便器をみがく

 

幾たびか買ひたる便器錆びそめて姑の病の癒ゆるともなし

 

われも又かく老ふる日のくるものを常臥す姑に苛立つ日あり

 

病む姑が夜の眠りに入る時にわが一日も終りとなりぬ

 

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介護

(つま)と抱く老い姑(はは)重し風呂場まで

                声かけ合ひていたはり運ぶ

 

湯の中に握りし指をほどきつつ麻痺癒えぬ姑の手を洗ひやる

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舅姑

わびしさの極まりにけり舅姑の襁褓(むつき)縫ひつつ雨にこもれば

 

病もて口きけぬ舅(ちち)に何ごとか問ひかくる姑の低き声する

 

病む舅の皺伸ばしつつ白き髭剃りゐてふいに涙こぼれき

 

指先にガラスの曇りぬぐひつつ臥す舅姑に初雪を告ぐ

 

死期迫る老がしきりに空に出す意識なき手を握りてやりぬ

 

常臥しの姑(はは)に心を残しつつ舅逝きたまふ春待たずして                              

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舅姑

病む姑を看りつつ思ふ職も技も持たざるわれの老ひし日のこと

 

わが姑の癒ゆる日あらば奇跡とぞ

                  にべもなく医師はわれに告げたり

 

家隅に癒ゆる当てなく臥す姑はわれの脳裡を消ゆることなし

 

座りゐる様いぶかりて吾がかけし手に意識なき舅は倒れ来

 

もの問へばうなづくのみの病む舅に真白き髭はいたく伸びたり                                                       

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